墓じまいと終の棲家

お墓の持つ意味

命日やお盆、お正月等を利用し、両親或いはご先祖様が眠る墓地に出向いて冥福を祈ったり、自身や家族の近況報告をする。そういった行動は誰しも1度はあるかと思います。

親族でなくても、お世話になった先輩、恩師などに日頃の感謝の意を込めてお墓参りする方もいるでしょう。人間が最後に落ち着く場所はお墓である。それが当然のように考えられてきました。

お墓はある意味、その人が生きていた証でもあります。どのような形であれ、誰にも侵害されることなく安心して永眠できる場所であるべきと考えます。

日本人の大半は、故人が永眠できる場所として「お墓」を選び、節目節目でお墓参りする風習がありました。

一般的に「お墓」とは、石で作られたものであり、故に墓石と称されるものですが、近年、その「お墓」を閉じる傾向が増えてきているようです。

ここでは、墓石で造られたものを「お墓」と定義して、墓じまいと自身の最後はどのような形で祀られたいかを考えてみたいと思います。

では、墓じまいとは何なのか。なぜ墓じまいをするのか。など一般的になじみのない「墓じまい」について見ていきたいと思います。

墓じまい

墓じまいとは、文字通り、故人が眠る「お墓」を閉じることです。まず、お墓から遺骨を取り出して、新たな場所へ移します。新たな場所とは、例えばお寺の敷地内の土中や、納骨堂等です。

遺骨を取り出された後の墓石は解体され、解体された石は産業廃棄物として廃棄されますが、後に舗装工事用としてリサイクルされるケースもあるようです。

墓石が無くなった土地は更地にして墓じまい完了となります。そうするまでに、菩提寺への説明や受け入れ先の承諾などの調整の他に、菩提寺から埋蔵証明書を、「お墓」の所在地の自治体からは改装許可証を発行してもらったりと、一連の事務手続きも必要になります。

期間にして数ヶ月かかる上に、費用も少額ではすみません。ましてや墓を無くすということは、お世話になった菩提寺に対して檀家を辞めるという話になりますから、付き合いの長さによっては躊躇することもあるかも知れません。

墓じまいをする理由

多少の煩雑さを乗り越えてまで墓じまいをするのは何故なのでしょうか。考えられる理由として主なものを挙げてみました。

  • 高齢化による管理能力の低下
  • 自分が埋葬された時、以後子供たちに墓の世話をさせるのが忍びないという心理
  • 将来的に墓を管理できる家族が居なくなるため

他にも理由はありますが、今や、「自分が死んだら両親或いは家族が眠るお墓に入るもの。」
もはやそういう時代ではなくなりつつあります。

ヒトは基本的に亡くなった後はどこかに祀られるものですが、その「どこか」が時代とともに変わりつつあるのです。

ましてや故人が祀られるのはお墓だけではありません。納骨堂や樹木葬、散骨など様々な形態があります。
「お墓」以外にどのような供養の種類があるのか見てみましょう。

樹木葬

「樹木葬」とは、デジタル大辞泉によると、「遺骨を直接地中に埋葬し、目印に木を植える方式」とあります。火葬された遺骨は、霊園又はお寺等の敷地内に埋葬され、その場所に目印として木を植えます。

個人的感想ですが、樹木葬は自然に還るという感覚になり、お墓に納めるよりは明るいイメージがあります。それに手間暇も掛からないので、お参りにくる方の負担も少なくすみます。

費用は数万から50、60万とその場所により差がありますが、仮に自身の「お墓」としてなら墓石や納骨堂よりは負担は軽くなります。中にはペットと一緒に眠る。という方もいるようです。

納骨堂

納骨堂とは、骨壺に入れた遺骨を安置する建屋のことで、一般的にお寺に設置しています。
形は様々で、表現は適切でないと思いますが、更衣ロッカーのように縦長の物や縦横数十センチのコインロッカーのような物まであります。

安置する場所は、檀家か一般客か。で対応が分かれるお寺もあります。例えば檀家であれば本堂の中に置かれますが、そうでなければ敷地内に建てられた専用の建物内の棚に置かれます。

値段は最低でも30万~50万はしますし、立派なものだと100万円以上します。菩提寺以外のお寺に置いてもらうのであれば、事前に見学することをお勧めします。

建物や遺骨を安置するロッカーの状況と値段とを比較し、住職さんの雰囲気も考慮するなど、自身で基準を決めて、希望に合致した納骨堂を選ぶのが良いです。

海洋散骨

散骨とは遺骨を粉末状態にし、故人の思い入れのある場所で撒くことです。それを海で撒く手法が海洋散骨です。散骨自体は法律上問題はありませんが、どこに撒いても良いというわけではありません。

海洋散骨は故石原慎太郎さんの時に行ったのが有名ですね。
海洋散骨は、家族等が行うものが一般的なようですが、希望すれば代わりに業者が行ってくれるとのことですので、おひとり様でも支障なく依頼できます。

墓に入りたくない、好きだった海で眠りたい。などの理由で海洋散骨を希望する人も少なからずいますし、イオンを始めとした業者も多く参入してますので、興味がある方は一度検索してみてはいかがでしょうか。

墓じまいが意味するもの

墓じまいをするということは、それまで眠っていた故人の遺骨を新たな場所に受け入れてもらうだけでなく、自身が、そのお墓には入らないことを意味します。

墓じまいは、お墓に固執することもなくなり、気持ちの負担も軽くなるばかりか、家庭環境によっては自身が最後に眠る場所を自由に選択できるようになります。

しかし、どのような形を選ぶにせよ、ある程度のまとまった費用が必要ですし、生前のうちに家族に意向を示しておかなければなりません。

身寄りのない、或いは親族等と疎遠である、等の正真正銘の「おひとり様」である場合は、事前に希望するお寺等に出向いて、手続きと支払いを済ませておくのも良いと思います。一区切りをつけたい方は生前葬を考えても良いでしょう。

自分の最期は自分で決める

いやいや、そこまで準備するなんて縁起が悪い。とお思いの方であっても、おひとり様の場合は、葬儀の手続きや納骨までの手続きを誰かにやってもらわなければなりません。

見ず知らずの人にまで手を煩わさせたくない、と考えている場合は、自身の遺骨の安置する場所を記した遺言書を用意しておくか、行政書士や弁護士、社会福祉士などの士業や業者に死後の手続きを依頼するように調整しておくと万が一のときに安心できます。

明日の予定はあくまで予定であって、実際の行動がなかなか予定通りに行かない日があるように、明日や未来がどうなるかは誰にも予想できません。

分かっているのは、遅かれ早かれ現代においてヒトは必ず死を迎えるということです。自身の最期を一瞬でも真剣に考えたとき、そのときがチャンスです。

エンディングノートや遺言書という決まりきった形である必要はありません。メモ用紙にサラサラっと思い付くまま1度書いてみてはいかがでしょうか。

やがて、それがたたき台となって、後から少しづつ思い浮かぶものを書くなどアップデートしていくうちに、気が付いたら立派なエンディングノートが完成しているかもしれません。